令和元年を迎えて

令和元年を迎えて

道頓堀の誕生した元和元年(1615年)のことを令和元年5月9日の日経新聞夕刊の「時を刻む」で読ませてもらった。そして5月10日の日経新聞朝刊一面に「令和を歩む」にAIに勝る読解力養おうという題で国立情報学研究所の新井紀子教授の話が編集委員 小玉祥司聞き手で掲載されていた。

是非熟読されたい。これまで五代友厚プロジェクトで検討してきたエキスが簡潔に述べられている。いやそれ以上の知性がちりばめられている。これを理解し、それを条理のふるいにかけてこそ生きた行動政策指針となるものである。

久しぶりに素晴らしい記事に出会うことが出来て嬉しい。

令和元年5月11日 廣田 稔

AIに勝る読解力養おう

人口減少が進み人件費が上昇する日本は、企業活動のあらゆる面でデジタル化が進むデジタライゼーションの影響が最も顕著に表れる国だろう。人工知能(AI)に職を奪われ望む職業につけない若者が増える一方、AIを使いこなし莫大な富を築く者も出現する。AIが大学受験に挑戦する「ロボットは東大に入れるか(東ロボ)」で警告してきたことが、現実味を持って受け止められるようになってきた。

内閣府の「2030年展望と改革タスクフォース」の委員を務めたが、マクロ経済学からみると不確定要素はイノベーションだけで、他の指標はすべて悪化している。「一発大逆転」を狙いたくなる気持ちはわかるが、イノベーションがいつ起こるかは予測不可能だ。

回らぬ再配分

18世紀に英国で始まった産業革命では労働力として大勢の人間が必要だった。資本があっても労働力がないとモノを作れなかったからだ。それが民主主義を生むきっかけにもなった。

しかし現在進むデジタライゼーションでは企業は人間を必要とせず、産業が生まれても雇用が増えるとは限らない。さらにグローバル化が進み、国民国家の枠組みの中では富の再配分がうまく機能しなくなっている。近代社会の前提が崩れてきているといえるだろう。

だが、国民国家の代替案がすぐに見えてくるわけではない。デジタライゼーションを利用し、国境を越えて富を集めながら、それに相応する人間を雇用しないGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)のような企業にどう再配分させるかが課題になる。

日本が一つの経済圏を保つには「人口1億人」の維持が鍵になる。バブル崩壊やリーマン・ショック、2度の大震災に見舞われた平成時代は目の前の問題の対応に忙殺され、若者が希望と安心感を持てるような政策を打てなかった。このことが、令和のスタートに暗い影を落としている。

これまでの研究でAIの限界がハッキリした一方で、多くの中高生がAIと同じように読解力が不足していることもわかった。読解力といっても文学の鑑賞ではない。教科書や新聞など事実について書かれた文書を正確に理解する力だ。これを放置するとAIに仕事を奪われる層が増え、格差が広がる危険性がある。

まず基本の型

読解力は生産性に直結する。文書やメールを読んできちんと実行できないメンバーが組織の中に数人いるだけで、ビジネスやプロジェクトは滞り、生産性は下がる。

AIと差別化できる力は「創造力」だとする論もあるが、論理性や構成力のない思いつきはアイデア倒れになりやすい。型破りは基本の型が身に付いたうえで破壊するから型破り。まず母語である日本語やAIの基礎となる数学をしっかり身につけてほしい。

子供たちに読解力を身につけてもらうリーディングスキルテストに取り組んでいる。読解力が身につけば生産性が高い人材になり、安心して生きていける。そうしたシンプルなメッセージが伝えられればいい。

あらい・のりこ 

米イリノイ大大学博士課程を経て1997年東京工業大学より博士(理学)取得。2006年より現職。日本エッセイスト・クラブ賞、石橋湛山賞など受賞。18年にマクロン仏大統領の招待でフランスのAI政策について進言した。56歳。

日本経済新聞2019年5月10日より引用